この本は青木善兵衛編で元禄八年(1695年)に出版され、「象戯鏡」に出ていない手合いを集めたものである。上中下の3巻で構成されていて、上巻15局、中巻15局、下巻10局+詰将棋10番。国会図書館には上・下巻しか保管されておらず、私は中巻を天理図書館から入手した。(天理図書館には全て揃っている。)
内容で重要なものは中巻では何といっても美濃の通音の指した将棋の新発見であろう。この将棋は現存する平手の美濃囲いの棋譜としては最古のものと思われる。江戸時代の定跡書に美濃囲いのことを通音流として紹介しているものがあり、意味が解らなかったが、要するに美濃囲いは美濃の通遠和尚が指したから美濃囲いというのだと思う。でも通遠和尚が指したのが初めというのも疑問で、相手も美濃囲いであることから、当時も定跡として知られていたのだと思う。少なくとも右香落では美濃囲いは指されているので、元祖では無いと思うが、結果的に平手では最古の棋譜なので、美濃の通遠和尚の囲い、略して美濃囲いとなったのだと思われる。
なぜ今迄判らなかったかったかと言うと、研究者が国会図書館の本を元に研究していたからで、天理図書館の中巻までは研究していなかったからだと考えられる。今回このことが明らかにされて、将棋史的にも有意義なことと思います。
次に下巻です。下巻の10局は初代伊藤宗看と萩浦眞甫との将棋で、従前は争い将棋と言われていたが、期間が長いことといい、右香落ばかりなのといい、指導将棋では無いかと思われる。
そして特筆すべきなのは、32の棋譜で萩野真甫が美濃囲いをしている。これは美濃囲いの現れた最初の現存する棋譜かもしれません。萩野真甫が指した指し方であると、象戯綱目にはあるので、通音流は平手の振飛車の美濃の場合の指し方をさしているのかもしれません。
更に下巻の最後に詰将棋が10番ついていて、これが著名な作品もあって、詰将棋史的にも外せない本である。詰将棋については、「詰将棋博物館」の「象戯記大全」で確認していただきたい。
国会図書館でも揃わない「近来象戯記大全」をお楽しみください。
番号 | 対局者 | 手合 | 番号 | 対局者 | 手合 | |
1 | 大橋宗桂(五代)・田川 | 左香落 | 21 | 谷都・たそのいち | 平手 | |
2 | 大橋宗桂(五代)・田川 | 左香落 | 22 | 廣庭桂少輔・谷都 | 平手 | |
3 | 大橋宗桂(五代)・田川 | 右香落 | 23 | 廣庭桂少輔・谷都 | 平手 | |
4 | 石田検校・大和の源右衛門 | 角落 | 24 | 美濃通遠・大阪次右衛門 | 平手 | |
5 | 石田・羽倉氏主膳 | 飛車落 | 25 | 廣庭桂少輔・庄村新右衛門 | 左香落 | |
6 | 松本堂常古・原喜右衛門 | 右香落 | 26 | たそ都・田代市左衛門 | 右香落 | |
7 | 北村何求・原喜右衛門 | 角落 | 27 | 谷都・大和源右衛門 | 右香落 | |
8 | 宗養・○○○ | 右香落 | 28 | 望月勘解由・大和源右衛門 | 右香落 | |
9 | 丹下齋図書・田代市左衛門 | 平手 | 29 | 長崎助次郎・大阪次右衛門 | 平手 | |
10 | 谷都・廣庭阿波守 | 右香落 | 30 | 谷都・久次見小兵栄 | 平手 | |
11 | 庄村新右衛門・井田長左衛門 | 平手 | 31 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 | |
12 | 廣庭桂少輔・田代市左衛門 | 右香落 | 32 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 | |
13 | 泉屋吉右門・谷都 | 平手 | 33 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 | |
14 | たそ都・谷都 | 平手 | 34 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 | |
15 | 北村何求・望月堂勘解由 | 右香落 | 35 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 | |
16 | 大橋宗桂(五代)・伊藤宗印(二代) | 左香落 | 36 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 | |
17 | 稲荷御殿預主膳・座頭○達 | 平手 | 37 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 | |
18 | 座頭○達・新右衛門 | 平手 | 38 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 | |
19 | 谷都・田代市左衛門 | 右香落 | 39 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 | |
20 | 谷都・田代市左衛門 | 右香落 | 40 | 伊藤宗看(初代)・萩野眞甫 | 右香落 |