「象戯図彙考鑑」は享保二年(1717年)に1巻の駒組み5巻の実戦集の全6巻の本で、私自身は写本を所有しており、写し間違いからか、棋譜が可也間違っていて解析に苦労した。結局棋譜の内2局が再現不能であったので、いずれ刊本と照合して刊本でも誤っているのか確認しなくてはならない。
「象戯図彙考鑑」で特筆すべきは、66と67の通音日長の指した美濃囲い棋譜であろう。美濃囲いは美濃の通音和尚が指したとされており、古い定跡書では通音流として載っている。ここでも2つの棋譜が残されており、その内一つは早美濃囲いまで行っていたのは驚きであった。私は早美濃囲いは大野源一の棋譜で初めて見たので、まさかこんな昔に指されていたとは思いもしませんでした。将棋史的には大発見だと思われます。
また54は史上初めての連将棋かもしれません。写本には下手の名前が2名併記されているだけで、本当に連将棋なのか、相談将棋なのか、途中から別人が指し継いだのかは不明ですが、下手を目の見えない人が2人で指したのは空前絶後の貴重な棋譜かもしれません。連将棋自体は明治以降の棋譜しか私は見たことがありません。
82と83の棋譜は炭屋大助が14歳平野屋藤蔵が15歳の少年同士の棋譜として割と有名な棋譜です。
また 「象戯図彙考鑑」には以下の疑問点がある。
象戯図彙考鑑疑問点
三番 角落ち 下手大橋宗銀上手伊藤宗印(二代) 御城将棋の記録では132手目84歩で投了している。この棋譜は完全に詰むまで指し、しかも手順が怪しいので、後世の人が付け足したのではないだろうか?
四番 飛車落ち 下手大橋宗桂(七代)上手伊藤宗印(二代) 御城将棋の記録では91手目79馬で投了している。本譜は詰みまで指している。
四十六番 先手山崎儀右衛門 後手長嵜傳左衛門 途中で棋譜が並ばなくなる。
六十番 先手山崎儀右衛門 後手武田又吉 全然棋譜が並ばない
以上のように問題があり、棋譜の内容的には低段の素人の棋譜が多いのですが、歴史的には意味がありますので、そういった観点から観賞してください。
2015年7月5日訂正
早大の古典籍DBで刊本が公開されたことにより、http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/wo09/wo09_00523/ 不明だった四十六番と六十番が解析出来ました。棋譜を入力しましたので、ご確認ください。
附記:情報提供の岡本様ありがとうございました。
番号 | 対局者 | 手合い | 番号 | 対局者 | 手合い | |
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1 | 元祖本因坊・元祖宗桂 | 平手 | 46 | 山崎儀右衛門・長嵜傳左衛門 | 平手 | |
2 | 伊藤宗印(六代)・大橋宗与 | 平手 | 47 | 長嵜傳左衛門・山崎儀右衛門 | 右香落 | |
3 | 伊藤宗印・大橋宗銀 | 角落 | 48 | 長嵜傳左衛門・武田又市 | 左香落 | |
4 | 伊藤宗印・大橋宗桂 | 飛落 | 49 | 高三清兵衛・谷忠兵衛 | 平手 | |
5 | 森田宗立・多曽都座頭 | 角落 | 50 | 谷忠兵衛・三浦重左衛門 | 平手 | |
6 | 森田宗立・大黒屋長右衛門 | 角落 | 51 | 長嵜傳左衛門・谷忠兵衛 | 右香落 | |
7 | 原喜右衛門・和泉屋吉右衛門 | 平手 | 52 | 谷忠兵衛・久須見幸祐 | 平手 | |
8 | 奥田佐平次・原喜右衛門 | 平手 | 53 | 原喜右衛門・山崎儀右衛門 | 右香落 | |
9 | 奥田佐平次・原喜右衛門 | 平手 | 54 | 松岡宗悦・谷都座頭+与都座頭 | 右香落 | |
10 | 原喜右衛門・奥田佐平次 | 平手 | 55 | 与都座頭・武田又市 | 角落 | |
11 | 多曽都座頭・長嵜傳左衛門 | 右香落 | 56 | 与都座頭・武田又市 | 右香落 | |
12 | 長嵜傳左衛門・多曽都座頭 | 平手 | 57 | 石井因幡・名村立摩 | 左香落 | |
13 | 住吉屋仁右衛門・多曽都座頭 | 平手 | 58 | 皆川宗仁・大河原三良太夫 | 平手 | |
14 | 多曽都座頭・永田彦右衛門 | 右香落 | 59 | 長嵜傳左衛門・福島万吉 | 右香落 | |
15 | 永田彦右衛門・島田市兵衛 | 平手 | 60 | 山嵜儀右衛門・武田又市 | 平手 | |
16 | 大橋宗桂・森田宗立 | 右香落 | 61 | 山嵜儀右衛門・武田又市 | 平手 | |
17 | 檜垣是安・石田検校 | 右香落 | 62 | 野口玄察・山脇勘左衛門 | 右香落 | |
18 | 檜垣是安・石田検校 | 右香落 | 63 | 野口玄察・武田又市 | 右香落 | |
19 | 与都座頭・原喜右衛門 | 平手 | 64 | 菅谷八良兵衛・平野屋七兵衛 | 平手 | |
20 | 原喜右衛門・長嵜傳左衛門 | 平手 | 65 | 平野屋七兵衛・菅谷八良兵衛 | 平手 | |
21 | 原喜右衛門・長嵜傳左衛門 | 右香落 | 66 | 武田又市・通音日長 | 平手 | |
22 | 谷忠兵衛・武田又市 | 平手 | 67 | 武田又市・通音日長 | 平手 | |
23 | 谷忠兵衛・武田又市 | 平手 | 68 | 荒川文蔵・遠藤又市 | 平手 | |
24 | 西村又左衛門・武田又市 | 右香落 | 69 | 遠藤又市・荒川文蔵 | 平手 | |
25 | 武田又市・西村又左衛門 | 平手 | 70 | 福住長兵衛・西沢貞陣 | 飛落 | |
26 | 原喜右衛門・住吉屋仁右衛門 | 右香落 | 71 | 福住長兵衛・武田又市 | 平手 | |
27 | 原喜右衛門・住吉屋仁右衛門 | 左香落 | 72 | 常川庄五郎・山嵜儀右衛門 | 平手 | |
28 | 元嵜勾当・伊豫屋仁左衛門 | 平手 | 73 | 山嵜儀右衛門・常川庄五郎 | 平手 | |
29 | 布屋太郎衛門・山脇勘左衛門 | 平手 | 74 | 多曽都座頭・与都座頭 | 平手 | |
30 | 谷忠兵衛・山脇勘左衛門 | 右香落 | 75 | 多曽都座頭・与都座頭 | 平手 | |
31 | 住吉屋仁右衛門・山脇勘左衛門 | 右香落 | 76 | 大橋宗与・松葉七太郎 | 右香落 | |
32 | 井田長左衛門・山脇勘左衛門 | 平手 | 77 | 大橋宗与・松葉七太郎 | 左香落 | |
33 | 井田長左衛門・山脇勘左衛門 | 右香落 | 78 | 石井長兵衛・松葉七太郎 | 平手 | |
34 | 長嵜傳左衛門・白嵜鐵郎 | 左香落 | 79 | 福島万吉・尾崎伊右衛門 | 平手 | |
35 | 白嵜鐵郎・武田又市 | 平手 | 80 | 幸田勘左衛門・福島万吉 | 平手 | |
36 | 森田宗立・谷忠兵衛 | 飛落 | 81 | 幸田勘左衛門・福島万吉 | 平手 | |
37 | 添田宗太夫・久須見小兵衛 | 右香落 | 82 | 平野屋藤蔵・炭屋大助 | 平手 | |
38 | 添田宗太夫・多曽都座頭 | 右香落 | 83 | 炭屋大助・平野屋藤蔵 | 平手 | |
39 | 添田宗太夫・与都座頭 | 右香落 | 84 | 福島万吉・山嵜儀右衛門 | 平手 | |
40 | 添田宗太夫・名村立摩 | 飛落 | 85 | 炭屋大助・平野屋五兵衛 | 平手 | |
41 | 原喜右衛門・関甚左衛門 | 飛落 | 86 | 炭屋大助・平野屋五兵衛 | 平手 | |
42 | 原喜右衛門・関甚左衛門 | 飛落 | 87 | 島臺屋吉兵衛・伊豫屋仁左衛門 | 平手 | |
43 | 与都座頭・谷忠兵衛 | 右香落 | 88 | 元崎勾当・伊豫屋仁左衛門 | 平手 | |
44 | 谷忠兵衛・与都座頭 | 平手 | 89 | 尾上権六・福島万吉 | 平手 | |
45 | 田代市左衛門・与都座頭 | 平手 | 90 | 武田又市・福島万吉 | 右香落 |