綿貫規約

詰将棋規約 草案 全日本詰将棋連盟 1963.3.10

目次 

緒言

規約本文及び備考

第一章       総則

第二章       施行細則

論理規程及び備考

用語規格

結言

 

緒言

 詰将棋の規約制定は棋界の宿願であり、全日本詰将棋連盟(ZTR)に課せられた事業の一つでもある。この問題の解決の為に本連盟諮問機関として設立された詰将棋規約審議会(TKS)は一昨年八月に20名の委員(その後若干名の辞任、追加、交替を見た)を以て発足し、15回の諮問を経て答申案を得るに至り、ここに規約草案を規約制定委員会(KSI)に提出すると共に、一般会員各位の批判を仰ぐことになったのである。

 TKSの弱点の一つは、委員各位の居住地が散在している為、相互間の見解交流や討論の実施が、時間と労力と経費の上から大いに制約を受けていることであって、やむなく次の処置により運営を計るほかはなかった。即ち、委員長がZTRを代表して諮問事項を提示し、その委員回答を整理要約して次回諮問に取り入れることにより、委員相互の意見交流とその調整を兼ねつつ、議事進行に努めて来たのであるが技術的未熟による不手際から、大方の満足が得られず、為に司会横暴の声さえあったが、ひたすら委員長への信頼を期待して諒承を願った次第。

 さて規約制定の本旨は詰将棋全般に通じるルールを求めることにあって、現行慣例や通念の単なる成文化に終るのであっては解決にならない。紛糾の主因は出題方式の変移と専門誌的内規の拡大に在るのだから、すべてを一旦白紙にもどして改めて「謎ときあそび」の一種として、その本来の姿を見きわめた上、ルールとして具備すべき条件を、客観性を主とし、主観性を従とする次の如き考察に基いて規定することを提案して委員多数の支持を得た。

 まず解法の基本を確立するべく、作者、選者及び解者のいずれにも偏しない高次元的見地に立脚し、この解法を以て作図と選題に対する指針とする一方、解答とその審査に対する拠点として基準を設定するというのである。

 この基本的解法の確立から、作品に存する固有の「本詰」という観念を導入して、本詰正解の原則を解答審査の基準とし、准完全作品における許容詰手順の範囲設定や、不完全作品に対する出題無効の考えを加えた規約草案にまで展開を見たのである。

 なお、規約の逐条審議に先立ち、規約条文の構成について発した諮問に対し結論として次の多数意見を得た。

 作品のもつクイズ性と鑑賞性とに等比重をおき、総則としての基本条項を細則としてその運用と方式別特例をそれぞれ規定してゆく。

 また審議の運営と条文の表現に必要とする用語の規格は、本稿末尾に記載の通りであって、公平かつ中立的見地を強調する為に、闘争や戦略に関連する用語の使用を努めて避けると共に、理解を助け混同を免れる目的から新造語の採用も試みたが、これらは飽くまでも審議の円滑化を狙ったものであるから、その採用方を強要しないが、もし甚だしい抵抗感を与えないとすれば、その正式採用を希望するものである。

 以下に記述する規約条項は委員答申の多数案を骨子とするが、表面化に至らなかった少数意見は、その主なるものを備考欄に記載して参考に資することにした。また規約として扱い得ない性質の事項(マナー或はエチケットとして関係者に要望されるもの)は別項に設ける倫理規程に収めてある。

詰将棋規約本文

第一章 総 則

第一条(定義)詰将棋とは、将棋の一般的規則を準用し、別に定める解法に従い、目標とする玉将を詰みに至

らしめるように作られた置駒と持駒の組合わせに対し、その詰手順を見出すあそびである。

第二条(解法)解法の基本は次の如く定める。

@     詰方の指手(着手)は必ず王手をかける形をとること。

A     玉方の指手(応手)は必ず王手をはずす形をとること。

B     応手の尽きた状態を以て詰みとすること。

C     詰方は提示の持駒の外に、中途入手の駒を使うこと。

D     玉方は残り駒を合いとして使用できること。

E     着手は最短手順を選ぶこと。(着手最短律)

F     応手は最長手順を選ぶこと。(応手最長律)

G     指手はすべて右の諸条件に対し必要かつ十分である手順をとること。(必要十分律)

第三条(作品)詰将棋の作品は次の如く分類する。

@     基本解法に従って得られる詰手順を本詰とし、本詰が唯一であり、かつ詰み上りに持駒を残さぬよう作られたものを完全作品とする。

A     前項の規定に反するものをすべて欠陥作品とする。

B     欠陥作品のうち、別に定める基準により許容される詰手順を准詰とし、これを含むものを准完全作品とする。

C     前項意外の欠陥作品をすべて不完全作品とする。

D     本詰の設定を誤った作品も前項に加える。

第四条(出題)作品の出題は次の基準に従うものとする。

@     出題は原則として完全作品に限る。

A     准完全作品の出題はこれを許容する。

B     不完全作品の出題はこれを禁止する。

第五条(解答)解答の判定は次の基準に従うものとする。

@     本詰の解答を正解とする。

A     准詰の解答を准正解とする。

B     前二項に対する解答上の取扱いは同格とする。

第六条(標準)本規約は次の標準に従って規定する。

@     単玉形式の作品における解答公募型の出題方式を標準とし、別に他の形式と方式の作品に関しては特例を設ける。

A     本規約の各項以外に、出題側がその主催範囲に限定する内規を設けて、出題を解答に関する一部の変更をすることができる。

第七条(異議)本規約の適用に関し出題の選定及び解答の基準の審査に対する異議は、これを本連盟所属の裁定機関に提訴の上、その最終判定を求めることができる。

 

第二章 施行規則

第八条(出題選定基準)出題作品の選定は次の基準に従う。

@     完全作品を出題適合とする。

A     准完全作品の出題許容限界は、第十条の基準に従い選者の裁量に委任される。

B     不完全作品は解法の正しい適用を不能とするを以て、これを出題して解答を求めてはならない。誤って出題されたものはこれを無効とする。但し第六条Aによるときはこの限りではない。

第九条(解答審査基準)解答の審査は次の基準に従う。

@     本詰及び准詰の解答に対して正解の判定を与える。

A     第六条Aにより不完全の解答審査を行う場合は、作意解答者及び指摘解答に対し、正解の取扱いを妥当とする。

B     准完全作品において、その欠陥の性質から必要と認められる場合は、第六条Aにより応募対象を考慮して、正解扱いとする許容範囲を拡大してもよい。

第十条(准詰の恕限度)准完全作品における許容詰手順は次の基準によって裁定する。

@     着手変化系の詰手順は原則的には余詰であるが、その内容と程度によって次の如く許容する。

(イ)   最終着手の別手順 これは二着手以内の同数順に限る。

(ロ)   着手迂回順 全手順の中途又は収束に当って生じ、明瞭な迂回と軽少な程度とが認められるもの。

(ハ)   成らず迂回順 これは(ニ)と共に軽い場合に限る。

(ニ)   手順前後成立

(ホ)   打場所限定不成立 これにより生じる長手数の詰は(ロ)と同じく取扱う。

A     応手変化系の許容手順

(イ)   同数順 但し手余りを伴うものを認めない。また作意推定を容易とする順を本詰とし他を准詰としてもよい。

(ロ)   作意外最長順 応手最長順に手余りの存する場合はこれを准詰とし、作意とする次位長数順で手余りのないものを本詰とする。また収束時に合駒をすれば二手延び一駒余りとなる場合はこの手順を准詰とし、合駒をしない手順を本詰とする。

第十一条(他の形式の出題)他の出題方式における解答は次の審査基準に従う。

@     趣向鑑賞型出題における正解は作意手順を主とする。

A     対局型出題方式における正解は玉方の認める詰手順を主とする。

B     右の措置は解答公募型の紙上出題方式に移された場合にはこれを適用しない。

第十二条(疑義の解決)本規約に明記のない事項に関する疑義は第七条の規定と等しく、裁定機関に解決を求めることができる。

 

総則に対する備考

[第一条] 一般規則とは駒の種別とその性能及び動かし方、禁制事項(二歩禁、打歩詰禁、不可動打駒禁、千日手禁をいう。「目標」の表現は双玉方式の場合も考慮してのこと。「あそび」とは娯楽行為として英語のプレーに当る語。

[第二条]緒言に述べた理由から攻方、攻手は不採用、@−Dは指手の一般的運び方。EFは本詰決定の絶対手順、Gは同じく最善手順を導くべき条件。なおEの着短律を除外すべしの主張あり。理由は余詰及び変別作品への適用における不合理。また応手はその変化系内の着手がすでに着短律に従うべきことを含むから、応長律のみを条文化せよとの意見あり。着短律を表面に出すと余詰作品の適用に不都合だという。(早詰の場合は作意を、長手数余詰の場合はこれをそれぞれ×とする)Gの必十律(略称)はEFの拡大解釈を防ぐもの。即ち飛角香の打場所を不要合駒入手や迂回着手の規制により一つに限定したり、手筋変更を伴わない無駄な合駒応手(2手延びて駒余りのみ)を排する為の規定。ほかに限定合駒にも有意義。

[第三条]客観性尊重の為、本詰の観念を@の如くその作品に固有なものとし、作者の趣向の存在とは一切切り離しておくが、作意はもともと本詰の手順に一致すべきものがあるが、もし他の詰手順を本詰と誤ってこれに作意を含めたとすれば(本詰設定錯誤)作品自身は客観的には不完全ではなくとも、出題された場合は作意が本詰とならない以上、不完全作品とせざるを得ない。欠陥とは解の一意性保持に反し、又は不詰や手余りの事実を有すること。このうちでその種類や程度により、その出題を許容し、その解答も正解扱いとする慣例があるので、その基準を施行細則中に規定する。准完全と不完全との確定的限界は規定できないから、その判定は選者の裁量に一任し、細則に記す通りの大まかな基準による外はない。Dは出題時点にいけるミスにより客観的に無欠陥の作品も不完全となる場合。

[第四条]出題作品は趣向としての難解性をのぞき、徒に解者を惑わしてはならないから、完全作品のみ選題すべきであるが、欠陥の程度が少なくて趣向の評価がこれを補ってあまりがあると選者が判定すれば、その作品の出題は許されてよい。しかし欠陥性が大であって明らかに不完全作品であることを承知の上で出題することは許されないし、出題後にその事実が判明すればその出題は無効となるのが当然。

[第五条]@に対し一部の委員に根強い反対説がある。それは本詰とは作者側と解者側がそれぞれ解法に従って得た詰手順の代表手順と、選者が全解答を総合して決定した代表手順から成るものであって、すべて詰め得た証明であるから、それらの解答に対し一律に〇×を与えてはならぬというのである。これは各人の主観に重点をおいた論であり、解答審査のみを重視して、作品を尊重しない一方的な見解によるものと断ぜざるを得ない。そもそも規約問題の紛糾は欠陥作品の出題に端を発しているのだから、客観的に本詰の観念を確率した上で、許容詰手順による准詰を規定して、両者の解答だけを正解とする原則を基本としない限り、混乱の収拾は望めないと思われる。なお両者は解答としては同格であるが、専門誌などで解答競技を催したり、段位授与の選考を行ったりする場合に成績の考慮に加えるのは差し支えない。

[第六条]近来とみに発展を示している双玉図式や、大道棋の如き対局型の出題方式とか、古典詰将棋における趣向鑑賞型や、新聞雑誌などの娯楽欄に見られる手筋教示型の出題方式では多少とも異なった規定を必要とする。また専門誌は解答競技や作品批判に重点をおく関係から、不完全作品の指摘や究明を行うので、不完全作品の出題を有効とし、その解答を審査の対象とする慣例があるが、これは言わばその専門誌のみに認められる内規であってこれを一般詰将棋に通用させるべく規約そのものを改訂してはならない。また一説として、出題作品には完全性の事前保証はないのであるから、解法は作品の完不完を通じて適用されるような規定であることを要するとの見解もあるが、これは作品には欠陥不可避であるとの前提と、不完作の出題有効の建前からなされたもの。しかし乍ら基本解法の適用が不能(解がない、手余りとなる、解の一意性が保てぬ)であるからこそ不完全作品と呼び、その出題が禁止されるものであることを忘れてはならぬ。不完全作品のキャンセルは完全性保証の一方法でもある。次に作品の欠陥は解者のあずかり知らぬものであるから、作者に対する規制はきびしくともよいが、解者に対しては大いにゆるめるべしとの寛容説と、ルールはもともと冷酷であり、きびしかるべきものだから、あまり規約で初心者をスポイルするのは不可であるとの強硬説がある。

[第七条]本規約の特徴の一つは、選者のもつ役割を重視していることであって、選者と審査の最終責任を課してその良識ある裁量にまかせている。しかし選者の独善や独裁を防止する為に、異議申立を受理し、再審を行って最終判定を与える裁定機関の設置を規定しているのである。

 

施行細則に対する備考

[第八条]出題選定の基準は解答審査の基準に対応して定められ、その細部は選者に一任される。不完全作品の出題は禁止或は無効の処置を至当とするが、専門誌などが内規を設けてこれを有効とするのは第六条Aで認められている。かかる出題錯誤は多く応募解答による大衆検討の形で発見され、その際において選者に要望される措置については、倫理規定の中で述べられている。

[第九条]解者を二大別して正答及び誤答とすれば、正答は規約による本詰又は准詰の解答と、内規により特に認められる条件付許容詰手順(条件詰)の解答であり、誤答は見おとしや感ちがいから正解と誤認された錯詰の解答である。条件詰は不完全作品における作意ならびに欠陥指摘の解答と、初心者に対する特例として認められる解答(本質的には誤答)をいう。前者では出題に当り選者が予定した作意順を誤答することの不可であるのは当然であって、不詰作品においては理論的には不詰指摘のみが正答であろうとも、道義的には作意解を誤答とすべきではない。詰の有無を検討する目的の出題ではないからである。なお、変化別詰について本規約は特に条文には明記しないが、変詰順の存在はその作品の欠陥ではない(委員回答の大多数が支持)から、その解答を正解とは認められない。もし欠陥として存在するものなら准詰又は条件詰の処理も可能であるが、完全作品である以上、変別解は誤答とする外はない。しかし応手変化同手数順(尾岐れ)の一方に生じた変別順の如く、複合欠陥として初心者の判別が至難である場合には条件詰の処置が許されてよい。

[第十条]完全作品における着手変化手順はすべて不詰に終るべきであって、別着手による詰は余詰にほかならない。但し応手変化系内の別着手による詰は変化別詰であって余詰ではない。@において許容される着変系詰手順は同数順又は迂回順として軽度の欠陥と認められるものであるが、二着手以内の最終着手における同数順(それ以上の手数では同手数余詰として不完全となる)とか、せいぜい四手ぐらいの手順前後による同数順とか、惑は明らかに遠まわりと気付き得る迂回順や、飛角香の打場所により手延び手余りを来たすだけの限定不成立順はすべて余詰とはしないで、准詰と見なすのである。なお解法に示した着短律は迂回順を、また必十律は不限定着手をそれぞれ規制するものである。また許容される最終着手同数順の一方に手余りがあっても、これを准詰として取り扱うことにしたい。次に応手変化系では手余り順の解答を避けるように要望する約束が通念として存し、同数順の一方に手余りがあればこれを答えない慣例になっている。即ち手余り順を得た場合は他に手余りのない同数順の解答は誤答となる。一部の意見としてこの処置を不当とする説もあるが、手余りという客観的存在が本詰又は作意の判別を容易にすることが考慮されるべきである。また手余りがなくとも、詰み上り象形の曲詰の如く、作意明瞭なものを本詰とし、他の同数順を准詰と見ることは妥当な考えである。なお同数順の一方に更に変化別詰順を伴うときはこの同数順を准詰に、この変別順を条件詰にすることは前述の通り。またこの変別順もまた同手数の場合は不完全の一種として三者とも条件詰となる。一説として応手同数順は手余りその他の有無に関せず、手数上からすべて同格の詰手順であるから、解答として全部の同数順を列挙しなければ正答とならぬ由の意見がある。これは「同格とは一方を以て他を代表する能わず」という学術的な解釈の上に立つものであり、われわれの常識的な解釈たる「同格とはどちらを答えても同結果である」と根本的に相容れないものであろう。次に古典作品では応手最長順でも手筋の平凡であることを理由に作意外はこれを正解に扱わぬ慣習が見られた。この妙手正解説は現在なお一部に信奉されているが、妙手の客観的識別が不能である以上、最長手順を本詰とするほかはない。しかしこれに手余りを伴う場合は、手余りを客観的判別条件とし、更に手余りを好まぬ主観的評価条件を加えて、この手余り応手変化最長順(手余り変長)を准詰とし、次位長数順で手余りのないものを本詰とすることを提案して、これを了解事項に決定した。但し二手延び一駒余りを恕限度とし、これを越えるものは出題不可とする意見が大半を占めた。また収束に当り合駒が不可能ではないが、二手延び一駒余りとなる場合も右と同じ処置をとることにした。いずれも手余りを避けて「詰将棋の美」を守らんとする一種の「必要悪」という考えによる「約束」である。この「詰将棋の美」とは「解を見出す喜びと趣向を味わう楽しみ」から尊重されるべき作品の価値をいう。(ロ)に定める事項は作意尊重の主観的条件にもとづく例外措置として了承されたい。

[第十一条]およそ20世紀以前の古典作品では作者の趣向を尊重するあまり、妙手正解や変長非正解の建前がとられ、長手数余詰を不問とする慣例すら認められるから、古典鑑賞や手筋賞味の意味あいで出題する場合は、右の慣習に従ってもよいが、解説中にその由を説明することを必要とする。もしこれらを解答公募の成績審査方式で出題する場合は標準規定に従わねばならない。次の対局型は詰を得るか否かを勝敗と見る大道棋のやり方や個人又は団体の解答競技における方式であって、勝敗を争う目的であるから、指将棋の対局と等しく応手のミスや作品の欠陥に関せず、玉方が詰を認めれば勝となる。しかし@と同様に解答公募の方式で出題する場合には適用されない。一般に主催側が内規を設けて任意方式の出題を行う場合にはこれにならうものである。

[第十二条]本規約に洩れたり、条文の解釈に困ったりする事項があれば第六条Aの内規による外は、第七条の異議と同じく、連盟の裁定機関に申し出た上で解決をはかることであって、国家における最高裁判所の役割を期待する規定である。

 

詰将棋倫理規程

甲 作者に関する規程

@     入念の検討により不完全作品の発表を防ぐよう努めること。

A     准完全作品といえども欠陥の補正に関する努力を惜しまず、軽率な発表を慎むこと。

乙 解者に関する規程

@     解答の応募に当り、検討に最善をつくすこと。

A     作品により解答を一通りに限定し得ない場合は、作意に副うと思われる手順を先に答えること。

B     作品に欠陥を発見した場合は、単に指摘するにとどめ、故意に揶揄する如き解答をしないこと。

丙 選者に関する規程

@     職責の重大性を自覚し、慎重に行動すること。

A     検討には特に重点をおき、小欠陥といえどもその修正を作者に求める努力を払うこと。

B     誤植は速やかに訂正再出題を計り、欠陥指摘を受けた場合は結果発表に先立ち、作者に通告して訂正再出題の機会を与えるよう努めること。

C     作者の同意を得ることなしに作品の補正や作意の変更を行わないこと。

D     寛大すぎる選題により欠陥作品の投稿を助長しないこと。

E     解答審査の基準をゆるめることにより、解者に迎合したり、作者に非礼を重ねたりしないこと。

丁 投稿に関する規程

@     投稿作品の受理後は可及的速やかにその採否を投稿者に通告されるべきこと。

A     採用決定作品が一定期間内に発表されない場合、選者は不採用として発表権を放棄すること。

B     前掲の期限内における再投稿は禁止されるべきこと。

C     作品又はその主要趣向手筋に関する優先権はその発表日附により決定されるべきこと。

D     作品の転載は作者名及び出典の明記を必要とすること。

E     未発表作品において、その無断投稿及至掲載はこれを禁止する。

F     盗作の事実に関する判定は当事者の良心に委せるべきこと。

 

倫理規定に対する備考

[甲]およそ作者たるものは自己の最善をつくして作品の検討を実施すべきことは当然であって、発見した欠陥は不完全性の明白なものは勿論、たとえ許容範囲内の小欠陥であっても、その修正に全力をそそぐべきである。もし選者の寛容につけこんで、作者としての良識を自ら汚すような態度をとるようであったら、品格の高い作品は生れるはずはあるまい。

[乙]もし解者側だけから考えるなら審査基準はゆるやかであるほど好ましいかも知れないが、詰将棋は喜びと楽しみを第一義とするもの。見おとしや感ちがいによる勝手気儘な解答が許されて、何の楽しみであろうか。まして作品の欠陥をシタリ顔に突ついたり、皮肉ったりするよりも、作者の主張する趣向に同調してその喜びをわかちあうことに深い楽しさがあろうと思われる。見おとしは解図力の未熟と努力不足の結果である。入念な検討は自発的なものであって、他からの強要にはよらぬものである。

[丙]選者は作者と解者の仲介者であり、謎ときショーの演出者である。しかもゲームのプロジューサー兼レフェリーでもある。楽しさは腕次第であって、その為の努力には限界はない。欠陥の防除に万全を期すのは勿論のこと、不完全や誤植の出題ミスに対するあと始末にも手際のよい処理が望まれ、事情の許す限り訂正再出題の措置で作者へのいたわりが欲しいものである。なお勝手に作品を補正して出題したり、本詰の設定錯誤を事後発見しても、結果発表に当り無断で作意のスリ換えをしたりすることの許されないのは当然であるし、選題のレベルを下げて作者を甘やかしてもいけない。まして正解の範囲をひろげて解者をスポイルすることは、同時に作者の意図を無視する非礼さにも通じることに留意すべきである。また解者の見おとしを責めることは、解者に完全検討を強制して不可であるとの説があるも、前述の如く解者の検討は自己規制であって、検討の不備から生じる不利は甘受するのが当然である。

[丁]一般商業誌紙の出題作品はほとんどがプロ棋士の手になるものであるが、専門誌や同人誌ではすべてアマ作家の投稿に依存している。この投稿作品に対する各誌の規定は、入選作の褒賞に関するものの外は大同小異であるが、少なくとも次の諸点について明確にしておく必要がある。まず作者は投稿作品の採用の有無と、紙上発表の期日を早く知りたがるものであって、中には待ち切れずに他誌へも投稿して重複掲載の結果を来たすことにもなる。故に選者又は主催者は採否をできるだけ早く決定して通知し、採用作品に対しても一定期間内の発表を約し、作者としても右の期限中の再投稿を慎むことが要望される。この期限は各誌の事情により一定することは困難であろうが、採否決定は3−6ヶ月、発表期限は6−12ヶ月の程度にしたいものである。このことは次に記す優先権と著作権とに対し密接な関連性を有する点においても重大である。即ち作品のもつ新しいテーマやプロットの創作者たる栄誉は、その発表日付によるプライオリティ(優先権)の確認により与えられるし、作者における物心両面の利益を保護すべき著作権も、その発表日付から発効するものである。なお著作権侵害を避ける為には、作者名と掲載誌紙名を明記せずに転載してはならない。(但し禁転載表示ある場合を除く)また作者の同意なしに投稿受理者が他誌へ発表したり、同じく当事者以外が投稿や掲載を行ったりすることも不可である。次に類似作や盗作の事実は、宮中歌会始の例をもつまでもなく、その判定を当事者の良心にゆだねるより外はないが、人気あるプロ棋士の作品にこれらの嫌疑が耐えないのは遺憾である。恐らく下請け作者の心なき仕業にもとづくだろうが、それを買った棋士の責任は更に大である。

 

詰将棋用語規格

 詰将棋には古来からの慣用語と、近来流布の新造語とがある。言語というものにはその時代の感覚が反映されるので、すでに死語と化している古文献にだけ見られるものや、一般に承認されるに至らない造成語もあって、これに各人各様の解釈も加えられ、これらが斯界における意志の疎通を妨げている事実が認められ、規約論議の紛糾に一役買っていたようである。よってTKSの発足に当り、必要最小限の用語規格を試み、まず議事進行の円滑化を計ったのであるが、更に一般規格としての採用も検討されんことを要望する。

 

用語規格案

汎例 [ ]ふりがな 〇定義 ☆類語と同義語 ※注釈 ★対応語と反対語 ◎用例

詰[つめ]

 〇玉を王手から脱することのできなくすること。

 ☆寄せ[よせ]

 ★詰抜け[つめぬけ]

 ※他動詞の「詰める」から形容詞又は名詞の形として使われるもの

 ◎詰将棋、詰方、詰手、歩詰など。

詰[つみ]

 〇玉が王手をはずす手段の尽きた状態に至ること。

 ☆寄り

 ★不詰[ふづみ]

 ※詰む(自動詞)の形容詞又は名詞の形として使用。なお前者と同じく送りがなはつけてもよいが、省略するのが慣例となっている。

 ◎即詰、本詰、余詰、詰上りなど。

王手[王手]

 〇玉が相手の駒の利き筋にあること、又はその状態に導くこと。

 ☆追手[おうて]

明王手[あきおうて]

 〇飛角香の利き筋を遮っている駒の移動によって生じる王手。

 ☆空王手[あきおうて]

両王手[りょうおうて]

 〇二個の駒により同時に行われる王手

 ※着手は一個の駒に限られるからこの場合の一方は明王手の形となる。

逆王手[ぎゃくおうて]

 〇双玉図式において玉方の応手により詰方の玉に生じる王手。

 ※これは応手としての明王手又は合駒によって生じる。

詰方[つめかた]

 〇玉を詰める為に王手をかける側

 ☆攻方[せめかた]

玉方[ぎょくがた]

 〇詰みを防ぐ為に王手を外す側。

 ☆受方[うけかた]

 ※以上用いられる「方」は方向又は側を意味し、方法又は手段の意義をもたせていない。

着手[ちゃくしゅ]

 〇詰方の指手であって必ず王手の形をとる。

 ☆詰方[つめかた] 攻手[せめて]

応手[おうしゅ]

 〇王手を外す為の玉方の指手。

 ☆受手[うけて] 防手[ふせぎて・ぼうしゅ]

 ※以上に用いた「手」は手段の義であって、人の意味に与えてはいない。

詰将棋[つめしょうぎ]

 〇規約第一条の定義の外に、作品自体をも意味する。

 ☆詰物[つめもの] 図式[づしき] 図局[づきょく]

置駒[おきごま]

 〇盤上にある駒

 ☆盤駒[ばんごま]

持駒[もちごま]

 〇当初指示及び中途入手による詰方所有の駒

 ☆手駒[てごま]

大駒[おおごま]

〇飛車と角行を称し、これらろ玉将を除く他の駒を小駒という。

☆遠駒[とおごま] 跳駒[とびごま]

★小駒[こごま]

※大駒に桂馬を加えて跳駒という。

合駒[あいごま]

 〇飛角香の王手を遮断する目的で使われる駒。

 ☆間駒[あいごま]

質駒[しちごま]

 〇玉方の駒であって、詰方に入手されて詰手順に加えられる可能性のあるもの。

飾駒[かざりごま]

 〇単に形を整えるだけで、詰手順及び変化手順に無関係の置駒。

本詰[ほんづみ]

 〇規約第三条@の記載通り。

 ★別詰・錯詰・余詰・早詰

 ※正しい手順による本来の詰という意味をもつ。

別詰[べつづみ]

 〇本詰以外に存する詰

 ※着手及び応手の変化手順に存する作意外の詰を総称し、古典作品では余詰及び変長などを指している。

余詰[よづみ]

 〇作意として本詰と考えられる手順に直結して併存する別着手による詰。

 ※古典作品には作意より長手数の余詰を不問とし、或はこれを正解としないものがあった。現在なお一部にこの見解をもつものが存している。是正を要する。

早詰[はやづみ]

 〇余詰のうち作意より短手数のもの。

 ※特にこの名称のあるのは、古典作品において、短手数余詰のみを趣向のつぶれとして忌み嫌った為と思われる。

錯詰[さくづみ]

 〇解法の適用を誤った為に本詰と錯覚して詰手順。(新造語)

即詰[そくづみ]

 〇短手数で平凡な手順の詰

 ※この語は指将棋の終盤で連続王手により詰むことから発している。

不詰[ふづみ・つまづ]

 〇正しい応手により詰に至らないこと。

 ※不完全作品以外で詰が発見できないことを意味しない。

歩詰[ふづめ]

 〇禁制の一つであって、歩を打って詰めること。

 ☆打歩詰[うちふづめ]

 ★突歩詰[つきふづめ]

 ※置駒の歩を動かして詰めることは許されている。

変化[へんか]

 〇本詰手順以外の着手又は応手による経過。

 ※着手変化は完全作品では不詰に終り、不完全作品なら余詰となるので、単に変化といれば応手変化を専ら指すのが常であるが規約として正鵠を期する為に、特に着手変化と応手変化を区別して明記する。

変化別詰[へんかべつづみ]

 〇応手変化系内で更に別着手によって生じる詰。

 ※このものの手数が本詰と等しいか、又は長い時に問題となるが、このものより短い手数の詰が同一応手変化系内の別着手により存在するので、このものは作品としての欠陥とはならない。

作意[さくい]

 〇作者の意図する手筋。

 ※本詰の手順に作意を含めるのが当然であり、然らざる場合は不完全作品となる。

手筋[てすじ]

 〇着手又は応手として最善かつ非凡な手順。

 ☆本筋[ほんすじ]

 ★芋筋[いもすじ]

 ※非凡とは初心者には発見困難である意。多くはプロットとして公式化されている。

収束[しゅうそく]

 〇詰手順の終盤として寄せの形に入ること。

 ※序中盤の諸手筋をへて、詰みに至る数手をいう。

手順前後[てじゅんぜんご]

 〇詰手順の中途で数着手の順序を前後しても同一手順に帰すること。

 ※この語は指将棋の解説などから発し、多くはこれにより不利を来たすものであるが、詰将棋では同一結果となる欠陥の一種。

尾岐れ[おわかれ]

 〇応手変化における同数手順。

 ※応手による手順前後を中岐れという。着手による同数順は余詰であって、通常はこれを尾岐れと呼ばない。

詰上り[つみあがり]

 〇詰に達した時点における置駒と持駒の状態。

手余り[てあまり]

〇詰上りに持駒の残ること。

☆駒余り[こまあまり]

★手一杯[ていっぱい]

※指将棋の寄せに当り、持駒を使い切って即詰にすることを手一杯の詰といい、持駒を残して詰んだ場合を手余りと呼んでいる。駒余りとはニュアンスを異にする表現。

曲詰[きょくづめ]

 〇当初或は詰上りの棋形とか、玉の詰場所、駒の動き方、又は使用駒の種類とかに趣向をこらした作品

 ☆象形詰[しょうけいづめ] 炙り出し詰[あぶりだしづめ] 煙詰[けむりづめ] 裸王[はだかおう]

不成[ならず]

 〇一般規則により成ることが許される場合、ある目的から成らずに指手を進めること。

 ☆生[なま]

 ★成り[なり]

 ※不成の目的は@成ると王手にならぬ、A成ると歩詰になる、B成ると最善手順がとれぬ等にあって、同一手駒でも成と不成とは全く異なった指手として取扱う。

 

結言

 本草案における特徴は次のように要約することができる。

 A 高い次元に立った広い視野から客観性に重点をおく解法の基本条件を決めたこと。

 B 選題と解答審査の基準について、その大綱に記されていない詳細の恕限度を選者の裁量に委せたこと。

 C 不完全作品の出題を禁止及び無効とする原則を打ち出し、トラブルの根元を絶ったこと。

 D 愛好者志向と専門誌の立場を考慮して内規の設定を容認したこと。

 E 選者の判定に対する異議と、規約の解釈に関する疑義とは、連盟所属の裁定機関裁定機関に解決を求めるよう規定したこと。

 F 規約として強制できぬ当事者への要望事項を倫理規定に盛りこんだこと。

 G 表現を明確にし、理解を助ける為に用語の規格を定めたこと。

 以上を了承の上、規約制定委員及び一般会員各位は慎重に草案を検討し、もし解釈上に疑義があれば、起草者に対し説明を求めるよう希望する。直後又は紙上回答によってこれに応じる用意がある。

 末尾ながら委員各位の芳名を記し、その御協力に対して感謝の意を表わしたいと思う。

 

◎委員名(敬称略・順不同・△中途辞任・〇新任交替)

 安達 栄司  浅輪 幸朗 △有吉 道夫  伊奈 正夫 △岩木金太郎 〇小林 豊  △石井 藤雄

 岡田 敏   大野 唆象  川崎 弘  △北原 義治  小西 逸生 △佐々木 明  鹿間 郁夫 

△二上 達也  田宮 克哉 △山川 次彦  田中 輝和  湯村 光造  森田 正司 〇金子 治雄

〇野口 益雄

(委員長)鶴田 諸兄

(事務長)綿貫 英助

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