千葉勝美

 先ず、昭和21年の「将棋研究」に載った千葉氏のプロフィールから紹介しよう。
《「千葉勝美氏」福岡県若松市本町七丁目(若松駅前)明治三十七年十二月二十四日生四十三才。棋力初段、印刷業。
 若い頃三代宗看の詰物を友人より出題され若心の結果詰上げた時の快感が忘れられず、それ以降、創作に解答に力を注ぐ。昨年戦災、今の住所に変わってからは余り創作を出さぬが氏の手腕は当代一流を行くものである。
 松本月報(今は廃刊)誌上では華やかに活動した一人。
 詰将棋に関心を寄せる程の人ならば先輩としての氏の名前は知っていよう。特に曲詰は得意中の得意。この点愛媛の三好鉄夫氏と当代の双璧であろう。》
 戦後は将棋のゴム印を販売していた、とどこかで読んだ記憶があります。
 千葉氏は300人一局集から漏れたのは不思議な実力者で、初形曲詰を連発し、今で言えば河内勲氏のような存在だったようです。
 当時の初形曲詰では丸山正為氏がおられますが、丸山氏の初形曲詰は変化が可也長かったり、終盤の余詰や迂回手順が作者自認で載っており、曲詰だからという理由で、不完全も止む無しという考え方で、現在では到底受け入れられないものも多いです。(時代的にはそれで良かったのでしょうけど。)その点千葉氏の作品は変長も2手長までみたいだし、迂回手順はあるものの、現在でもキズとして許容範囲のものが多いようです。
 発表数は30〜40局程度。半数以上初形曲詰や形を意識した作品です。初形曲詰の内容をざっと書いてみると、「イ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・チ・リ・ヌ・ル・ヨ・ミ・6×6の市松・9×5の市松」といったところです。

 初形「イ」の字で、最初は絶対手の連続から始まる。7手目51角と打ってからが主眼で、ここで62桂が作意であるが、歩合だと2手長の変長であるのが惜しい。以下は馬を捨てて、吊るし桂の詰み上がりで時代を考えれば好作であろう。ただ58歩は飾り駒のようである。

 「ハ」の字である。初手から結構難しい作品で、72飛成や55金等があるなかの五五角は玉を逃がしそうでやりにくい。5手目64龍が作意であるが、ここで53龍でも良いキズがある。今では大きなキズなのでしょが、当時は全く気にされていなかったようだ。
 12手目24玉の局面で手が無いようであるが、22飛から42角成としてみると意外に狭い玉であるが、まだまだ詰ますのに時間がかかるのである。
 24手目23玉でまたもや手がかりが途切れたようであるが、34馬〜33馬とするのが巧い手順である。
 34手目62飛合だと2手長駒余りとなる。
 盤上を大駒で追廻81で詰むなど意外性もあり好作であると思う。

 「ヘ」の字である。2手目の合駒であるが、歩だと9手目64歩で早いので桂合は順当なところである。また6手目歩合だと65龍とし、64金(74龍防ぐ)55桂62玉64龍で同馬と取らざるを得なく早く詰むので金合の一手である。この2つの合駒が軽い序として入る。
 14手目42玉となって、これ詰むのかな?という局面になる。しかしながら53龍から13角とすると意外に狭い玉で20手目の42金で3度目の合駒が入る。ここで作意は53桂であるが、33桂でも詰むキズがある。
 本作は序盤の合駒あたりが主眼と思われるが以下も破綻なく(キズはあるが)まとまり、先ず先ずと思われる。

 「ル」の字である。絶対手であるが55飛成は気持ち良い手である。以下は駒を取りながら絶対手が続く。14手目96玉が作意であるが、85玉で2手変長のようである。
 又19手目53角成でも詰むが、この程度のことは、重箱の隅をつつくようなものだったらしい。現代では入選出来そうもないが、この程度の作品でも昭和24年出版の「昭和曲詰集」に選ばれたのであった。

 秀局回顧録の上巻に選ばれるなど、作者の代表作であるが、7手目24馬の迂回手順的余詰がある。私自身作意の四三銀成ではなく、24馬で詰ましたのであった。前にHPにも書いたが、門脇氏とメールのやり取りをしたところ、この程度のことは当時は気にされていなかったようである。又、目くじらを建てずにキズで良いのでは?ということで、私も時代を考えるとキズで良いかと思います。
 手順的には20手目まではスラスラ進む。ここでの73桂成がチョットいい手である。以下31手目少し指し難い74飛の駒取り後はまた流れるような手順で37手目81角の好手で締めくくる。
 キズはあるものの作者の代表作といえよう。


 上記のように書いていたのですが、この代表作に酷似作品がありました。詳しくは「創作か!?剽窃か!改作か?」へどうぞ。

 曲詰を取り上げてきましたが、ここで普通の作品からも1局選んでおこう。
 初手の57銀から55金さらに54金から65銀・56銀と巻き戻すような軽趣向の導入部は誠に巧い。17手目の76飛も限定打で飛と龍で下段に追い戻す。
 下段の追い上げの形は74飛・54龍の形でないと詰まない。それは27手目72歩成から52龍とする為で、この52龍によってまた上部に追い上げる手順が見えないと解けないことになる。玉が55に来た時点で合駒せざるを得なくなり、再度下段に追い落とされの終局となる。
 この作品は千葉勝美の作品をデータベースで調べた際に見つけたもので、可也面白い作品ではあるが、湯村光造氏の将棋月報の論考からも漏れていた傑作である。この作品なんかは評価されても良い作品であると思います。


 以上で千葉勝美氏の紹介を終わります。曲詰については、千葉氏の全作品を鑑賞して選らんだつもりでしたが、結果的に清水氏の「昭和曲詰集」に載っている千葉氏の作品と一致したのは、清水氏と審美眼が一致していたみたいで、嬉しかったです。
 千葉氏のように忘れ去られた作家についても、データベースで簡単に鑑賞出来るようになった今こそ再評価して行きたいものです。

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